『海の向こうに本を届ける―著作権輸出への道』(栗田明子、晶文社)が面白い。
本書は、日本の作品の海外での受容の過程を知る格好の書物であり、また、同時に一人の女性パイオニアの勇気ある生き方を綴った自伝でもある。

著者は、1970年代にタイム社を退社するや創設間もない著作権代理店「日本ユニ・エージェンシー」の名刺だけで世界の出版社を訪れるという旅に出る。「日本の出版社は英米から競って翻訳出版権を獲得しているエージェントは数社あるのに、その逆をしているエージェントがない」―それを何とかしたいと思ったからである。
著者は小松左京『日本沈没』を初め、北杜夫、丸木俊、安野光雅、馬場のぼる、よしもとばなな、小川洋子等の一万三千点に及ぶ作品を四十もの国へ送り出した。私は著者の行動力の凄さに驚くとともに、本書からはその苦労よりも躍動する楽しさが伝わってくることに爽快感を覚えた。また、出版文化に関わる現場では人と人との繋がりがいかに大切か、人と出会うことでどんなに思いがけない幸運がもたらされるのかが余さず書かれていて、誠にスケールの大きな交友録となっている点にも魅力を感じた。そこには「出版は志があってこそ手がける仕事」と信じて業界を支えてきた人々の姿がある。しかし、その大半が今や故人となり、会社は合併吸収を繰り返し変貌する。それを見つめ記述する著者の複雑な思いも伝わってくる。
私は今、まずは国内全ての「本を届ける人」に、この本をこそ届けたい!と心底思うのだ。
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