庄野潤三『陽気なクラウン・オフィス・ロウ』が講談社文芸文庫で昨年末に発行された。著書がロンドンを中心に、『エリア随筆』で知られたチャールズ・ラムゆかりの地を訪れた旅行記。「クラウン・オフィス・ロウ」とは、ラム姉弟の生まれ、幼年期を過ごした場所の名前。「陽気な」…。
ラムは1775年ロンドンに生まれる。1782~ 89年までクライスト・ホスピタル校に在学し、この時に詩人のコールリッジと親交を結ぶ。兄のジョンが勤務していた南海会社に入り、その後、東印度会社で30年以上も勤め恩給をもらって退職。1796年、姉メアリーが一時的な発狂の結果ナイフで母親を刺殺した。ラムは結婚を断念し、精神疾患のため不定期に発作に見舞われる姉の面倒を見続ける。副業として始めた文筆業で、姉メアリーとの共著『シェイクスピア物語』「エリア」の筆名による『エリア随筆』を発表。そのエッセイは規範となる名文章として知られている。
この『陽気な~』は、作者・庄野潤三のロンドン滞在中の緻密な日記(及び庄野夫人の滞在ノート)を中心に、『エリア随筆』からの多くの引用、ラム自身の言葉、コールリッジを始めとする幾多の著名な友人たちへの手紙、著者・庄野と親交の深い英文学者福原麟太郎(『チャールズ・ラム伝』作者)、その福原と現代イギリス詩人エドマンド・ブランデンとの繋がりや思い出等が溶け合い織りなされて、C.ラムを主題とするつづれ織りのごとくである。
著者は後書にこう書く。・・・ラム姉弟の生活を偲ぶ「ロンドン日記」が今まで『エリア随筆』になじみのなかった読者へのささやかな橋渡しの役を果たしてくれるように願っている。・・・故・庄野さん、チャールズ・ラムの文と生涯は間違いなく私の胸に沁みて来ましたよ。
PR
COMMENT