昨日の大地君の感想の続き。
柄谷行人は、最終的に国家を超えるものとして世界共和国こそが必要であると結論付けます。『世界共和国へ』は、『永遠平和のために』を意識した作りになっています。『永遠平和のために』は、プロイセンの哲学者イマヌエル・カントが1795年に刊行した書物。絶対的平和を実現するため、必要になる条件を列挙しています。
◇予備条項
「将来の戦争の可能性を含む平和条約は、そもそも平和条約とみなしてはならない」
「独立して存続している国家は、その大小を問わず、継承、交換、売却、贈与などの方法で、他の国家の所有となされてはならない」「常備軍はいずれは全廃するべきである」「国家は対外的な紛争を理由に、国債を発行してはならない」「いかなる国も他国の体制や統治に、暴力をもって干渉してはならない」「いかなる国家も他の国との戦争において、将来の和平において相互の信頼を不可能にするような敵対行為をしてはならない。たとえば暗殺者や毒殺者を利用すること、降伏条約を破棄すること、戦争の相手国での暴動を扇動することなどである」
◇確定条項
「どの国の市民的な体制も、共和的なものであること」「国際法は、自由な国家の連合に基礎をおくべきこと」「世界市民法は、普遍的な歓待の条件に制限されるべきこと」
『永遠平和のために』が執筆された頃、国際的な連合がありえる、と真剣に考えている人は恐らくカント以外にいませんでした。国際的な連合はカントの単なる夢想だったのです。しかし、第一次世界大戦後、世界規模の大戦争に苦しめられた人々は国際連盟をつくりました。そして、第二次世界大戦後、人々は国際連盟を国際連合に発展させました。
国際連合は意味がないと主張する人がいます。確かに、国際連合の会議では、大抵の場合、各々の勢力が各々の利益を主張しているだけです。不合理な会議、不公平な決定も溢れています。そして、結局、強国の横暴を止められません。しかし、国際連合は、現在、地球全体のことを真剣に丁寧に考えているグループがほとんど存在しないことを逆説的に示します。そして、国家や企業はそのグループの利益を何よりも優先するからあぶない、ということも明らかにします。そして、国家・企業に頼らない別の手段も用いながら、現状を打開していこうとするべきなのではないか、と思わせてくれます。
夢想は現実を照らし出し、変えていくものに成り得ます。『世界共和国へ』もまた夢想であるがゆえに、もしかしたら現実をうつしだす鏡になりえるかも知れません。ただ、強度と迫力が足りない気もしますが。