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レディ・ジョーカー      (617)

中島大地君(24期生、大学1年)の読書・書評コーナーである「大地人~大学生の読書日記」、その2。今回は、『レディ・ジョーカー』 著者:高村薫、出版社:毎日新聞社。



【あらすじ】
1947年に届けられたとされる1通の「怪文書」が物語の冒頭に置かれています。その怪文書は「日之出ビールが部落差別のため、三名の社員を強制解雇したと聞いたが事実なのか」と問い詰めるものでした。差出人は日之出麦酒株式会社の社員、岡村清二。

時は流れます。歯医者・秦野浩之は、東大生である息子・秦野孝之の事故死を怪訝に思い、息子の周辺を調査しました。そして、息子の死後、日之出ビールから不採用通知が届いていたことを知ります。会社に確認してみると、秦野孝之は、日之出ビールの二次試験の途中で気分が悪いと中座して帰ったため、不採用になったようです。しかし、秦野浩之は、自分の父が部落出身だったから息子は落とされたのではないか、と感じて、日之出ビールに抗議文を送ります。一度目は本名で、二度目は部落解放同盟で。
二度目の抗議文を送った後、浩之のもとに、西村という部落解放同盟の男が訪れます。西村は一つの手紙を出します。1947年、日之出ビール宛に出されたと思われる「怪文書」でした。差出人は、浩之の妻の父の兄にあたる人物のようです。西村が去った後、浩之は整理できない感情を抱えながら、怪文書をテープに吹き込み、日之出ビールに送ります。そのテープは警察に届けられました。その後、浩之は自殺します・・・
浩之の義父、物井清三は競馬好きの薬局店主です。孫(秦野孝之)を失い、息子(秦野浩之)も失い、様々なことを調べている内に、老人ホームで死んだ兄、岡村清二のことを知ります。兄はかつて労働組合運動に関わったために日之出麦酒社を解雇されたようでした。物井清三は多くのものを失ったためなのか、なにかに突き動かされて、日之出麦酒社を脅そうと考えます。そして、旋盤工・松戸陽吉、信用金庫職員・高克己、トラック運転手/元自衛官・布川淳一とともに計画を立案。彼らは「レディジョーカー」と名乗り、日本ビール界最大手の日之出麦酒社社長の誘拐を企みます・・・

【感想】
実在の事件をモチーフにした小説。上下巻構成。ともに400ページを超えます。言葉は溢れています。しかし、説明されない部分もまた尽きません。読者は夥しい言葉であっても明らかにすることができないものがあるという当然の事実を突きつけられます。たとえば、人間の心は語り尽くせません。

『レディ・ジョーカー』には、「レディジョーカー」の面々、日之出麦酒社の面々、警察の面々、闇世界の人々(総会屋、右翼、暴力団)、記者など、様々な立場の人が登場します。各々の組織は決して一枚岩ではなく、渾沌としています。そして、各個人は犯罪とその背後にある日本の歴史が抱え込んできた矛盾に直面して、複雑な思いを持て余しています。しかし、自分の立場があるので、素直に思いを語ることもできません。だから、捩じれた複雑怪奇な状況が生まれます。現代日本を丁寧に映したかのようです。

※この後、著者=高村薫についてのコメントが続くが、それは明日UP。
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