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高村 薫      (616)

中島大地君(24期生、大学1年)の読書・書評コーナーである「大地人~大学生の読書日記 その2」で紹介した『レディ・ジョーカー』の著者である、高村薫について。引き続き、大地君の文章から。

【著者に関して】
高村薫は粘り強く、現実に向き合おうとしています。現在生きている小説家の中では、最も信頼に足る人物だと個人的には感じます。



当初、高村薫は、ミステリ作家としてデビューしました。しかし、ミステリというジャンルには収まらない作品を書くと宣言。現在、「小説」と呼ぶしかない作品を書き続けています。特筆するべきなのは、原子力発電(『神の火』)や、核燃料サイクル(『新リア王』)を直視して、物語の主題に据えてきた点です。ほとんどのメディアが口をそろえて原子力発電を称賛していました。しかし、高村薫は福島で事故が起こる前から、原子力発電は地震が多い日本には適さないのではないか、と疑問を呈してきました。その主張は合理性に裏打ちされています。だから、信頼できます。

高村薫は、合理的な人です。しかし、論理の前提には高村薫自身の人生経験があるような気がします。そして、論理の根本には、いわゆる「論理」では把握することができない絶対的な不条理が世界にはある、という感覚があるのではないか、と感じます。高村薫は、阪神淡路大震災を経験した後、「地震のために亡くなられた方々の死を引き受けなければならない」という趣旨の発言を行いました。そして、地震がもたらした痛みを理解できていない東京の人たちに疑問を投げかけました。無数の死を引き受ける、という感覚は、論理的ではありません。もしかしたら、高村薫をナイーヴだ、あるいは古風だ、と嗤う人がいるかも知れません。しかし、人間は、無数の不条理な死をなおざりにしてはなりません。無数の死を放置したら死者を二重に殺すことになるからです。

沖縄戦を生き延びた人たちは、死者の名を平和の礎に刻みました。そして、何千度も無数の不条理な死を語り、平和を守るべきだと訴えてきました。沖縄のおじい、おばあのことばは、壮大な歴史の片隅に回収されていこうとしていた個々の人たちを蘇らせて、死に逆らいます。同時に、無数の不条理な死を明らかにして、そのようなことを繰り返してはならないと告げます。過去の出来事を教訓にして未来に託すことにより、過去を生かしているわけです。高村薫もまた沖縄の人たちのように生きていこうとしているようです。

人間は巨大な潮流の中にあります。自分を覆う構造を打ち砕くことはたいていできません。しかし、抗うことはできます。高村薫は暴挙かも知れないと自覚しながらも、ことばを用いて、世界の構造を把握して世界が孕む圧倒的な不条理に立ち向かおうとしているようです。だから、高村薫作品は指針になります。

※ 本日、高1学年ワーク「ボランテイア」グループ(生徒19名教員2名)が宮城県石巻へ向かい、12:45に学校を出発する。高1学年ワークは他に「脱電気」という企画もあり、3.11後の新たな取り組みを示す。

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