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自我作古 批評(ジャーナリズム)を考える。    (639)

この『トトロのトポス』には当初から「大地人~大学生の読書日記」というカテゴリーを設けていた。中島大地君(24期生、大学1年)の読書・書評コーナーである。今回は、その1

『自我作古 批評(ジャーナリズム)を考える。』著者:筑紫哲也、出版社:日本経済新聞出版社

【筑紫哲也】ジャーナリスト。朝日新聞社記者、『朝日ジャーナル』編集長、TBSテレビ『筑紫哲也NEWS23』メインキャスター、雑誌『週刊金曜日』編集委員などを務めた。自由の森学園の公開教育研究会に来たこともある。2008年死去。



雑誌『週刊金曜日』に連載されていた筑紫哲也の文章(「自我作古」と「風時計」の一部)をまとめたもの。世界の只中にありながら、筑紫哲也は様々な問題を論じていきます。言論に対するこだわりが感じられます。

民主主義の前提には言論の自由があります。ただ、四方八方にバラバラの言葉があるだけでは、何にもなりません。異なる意見をつなげるテーブルが必要です。様々な意見を持つ人たちがテーブルについたら、相互理解、寛容の精神、少数者の尊重などを重視しながら、互いを批評しなければなりません。

筑紫哲也は多くの言論をつなぎ、議論の場をつくろうとしました。そして、その際には、常に少数派の意見を取り上げました。たとえば、米軍基地問題を扱う際には、常に、沖縄の視点を紹介しました。

結果として、筑紫哲也は大きな影響力を持ちました。そのため、「反体制派を気取る体制派だった」、あるいは「反権力を名乗る権力だった」と揶揄されることもあります。しかし、筑紫哲也は力を用いて、反対者を捻じ伏せたから、支持されたわけではありません。自分の意見を貫きつつ、他者を議論に迎えたから支持されたのです。

『自我作古 批評(ジャーナリズム)を考える。』を読んでいると、筑紫哲也という人が、自分の主張を曲げない強固な意思とものごとを様々な角度から見つめる柔軟な姿勢を併せ持っていた、ということが分かります。その背後にあるのは、ものごとのバックボーンを見通す素養です。

印象に残った点を記しておきます。

筑紫哲也は、一極集中と回路の一本化が進む時、メディアは疲弊する、と分析します。そして、多くのメディアが交錯している状態が望ましい、と主張。その具体的な手段として、たとえば、硬派雑誌『週刊金曜日』の創刊・持続をあげます(「第2章 メディア批評の虚実(雑誌―滅び行く種族?;テレビ―永遠のジレンマと三重苦;新聞―衰弱する権力監視機能;本―文字文化から電子文化へ)」)。

また、編集の重要性を綴った部分も、印象に残ります。坂本一亀という編集者がいました(坂本龍一の父)。坂本一亀は、椎名燐三『永遠なる序章』、三島由紀夫『仮面の告白』、島尾敏雄『贋学生』、野間宏『真空地帯』、中村真一郎『長い旅の終り』、多岐川恭『落ちる』、水上勉『霧と影』、山崎正和『世阿弥(劇作)』、高橋和巳『憂鬱なる党派』『悲の器』、野間宏『青年の環』、小田実『何でも見てやろう』、辻邦生『夏の砦』、丸谷才一『笹まくら』の編集に関わり、小説家たちに大きな影響を与えました。

表舞台に立つのは、常に小説家です。名誉を手に入れるのも小説家です。しかし、編集者である坂本一亀という人がいたから、戦後日本文学はあるといっても過言ではありません。編集者は、舞台を陰から操作する「黒子」ということができます。筑紫哲也は表舞台に立っていたのだから一般的な編集者=黒子ではありません。しかし、原稿を書いている時も、テレビに出演している時も、常に編集者気分だったと綴っています(「戦後日本文学の偉大なる黒子」)。もしかしたら、筑紫哲也は、日本メディア全体の編集者だったのかも知れない、と感じます。
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