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カテゴリー「大地人~大学生の読書日記」の記事一覧

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不老不死の身体-道教と「胎」の思想     (595)

中島大地君(24期生、大学1年)の読書・書評コーナーである「大地人~大学生の読書日記」、その3。今回は、『不老不死の身体-道教と「胎」の思想』 著者:加藤千恵、出版社:大修館書店



中国初代の皇帝、始皇帝は、不老不死を望んでいたといわれます。
 とくに、徐福伝説は有名です。始皇帝が不老不死の薬を手に入れるため海に派遣した徐福という男が日本に来た、というエピソードは日本全国に残っています。
 始皇帝は、徐福だけではなく、多くの妖しい人たちを集めて、不老不死の薬を手に入れようとしました。しかし、結局、不老不死の薬は見つかりませんでした。

 現代の人間は、不老不死という言葉を笑うかも知れません。しかし、不老不死に対するあこがれは今でも様々な場所に息衝いています。たとえば、多くの小説・映画・ゲームの中には、死を知らない神や吸血鬼やゾンビやロボットが登場します。そして、科学技術はクローン技術を生み出しています。
 そもそも科学の祖先である錬金術は、不老不死に対する憧憬が生み出したものです。『鋼の錬金術師』などでも触れられていましたが、西洋に発生したいわゆる錬金術は、金を生み出す技術ではなく、肉体や魂を練り直して完全な存在を錬成しようとする壮大な計画でした。
 不老不死に対する欲望を見つめなければ、人間の文化を論じることはできないといってしまっても過言ではありません。

 『不老不死の身体』は、不老不死に関わる中国の思想を明らかにする書物です。内容は多岐にわたるので、まとめることはできません。印象に残っている部分を記していこうと思います。

 中国の人たちは、古くから神仙に憧れていました。神仙とは、不老不死の人、あるいは非常に長く生きる人たちのことです。神仙は胎児のように無垢であり、山に遊ぶといわれていました。『荘子』の中には「風を吸い、露を飲む」という言葉が仙人の生活を表すものとして出現します。
 一般の人間が神仙になることはできない、とされていました。しかし、「素質がある者は一度胎児に回帰してから神仙になることが可能だ」と唱える人もいました。だから、神仙になろうとして修行する者が現れました。その際に活かされたのが、身体と世界は対応しているとみなす思想です。
 修行者たちは身体を小宇宙であると考えました。そして、様々な手段を用いて、胎児に戻り、身体を調整しようとしました。
 神仙になる修行の流れを引き継いで、不老不死を目指すのでなく、身体の健康を保つことを目的とする術も現れました。大別すれば外丹術と内丹術に分けられます。
 外丹術とは薬を服用して体のバランスを保とうとする術です。たとえば、水銀や砒素を含む物質を飲むと健康になるといわれていたようです。勿論体に良いはずがありません。多くの人が健康を害したと考えられています。たとえば、唐の時代には少なくとも6人の皇帝が有害物質を飲み、死亡しました。その結果、外丹は宋代に廃れていくことになります。
 内丹術とは、身体のバランスを調節して健康を保とうとする術です。内丹術ではとくに食と性が問題になりました。たとえば、穀物を断つと良いという説がありました。陰陽のバランスを適切に保つセックスを行うのが良いという説もありました。加藤千恵は、表面の教えだけを見つめるのではなく、陰陽・五行・易などを踏まえて内丹術独自の論理を考察していきます。その部分は非常に面白いです。

 加藤千恵は多くの文献に当たりながら、古代中国の人たちの思想に迫っていきます。『不老不死の身体』は決して読み易い書物ではありません。世界と身体は呼応している、という中国古代の身体感覚にまで迫ることになるのだから、分かりやすいはずがありません。疑問の渦に包まれます。しかし、分かりやすさを求めるべきではないのかも知れません。『不老不死の身体』は、先人のあとを追いながら不老不死にいたる道を発掘していくスリルに満ちたミステリなのです。
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高村 薫      (616)

中島大地君(24期生、大学1年)の読書・書評コーナーである「大地人~大学生の読書日記 その2」で紹介した『レディ・ジョーカー』の著者である、高村薫について。引き続き、大地君の文章から。

【著者に関して】
高村薫は粘り強く、現実に向き合おうとしています。現在生きている小説家の中では、最も信頼に足る人物だと個人的には感じます。



当初、高村薫は、ミステリ作家としてデビューしました。しかし、ミステリというジャンルには収まらない作品を書くと宣言。現在、「小説」と呼ぶしかない作品を書き続けています。特筆するべきなのは、原子力発電(『神の火』)や、核燃料サイクル(『新リア王』)を直視して、物語の主題に据えてきた点です。ほとんどのメディアが口をそろえて原子力発電を称賛していました。しかし、高村薫は福島で事故が起こる前から、原子力発電は地震が多い日本には適さないのではないか、と疑問を呈してきました。その主張は合理性に裏打ちされています。だから、信頼できます。

高村薫は、合理的な人です。しかし、論理の前提には高村薫自身の人生経験があるような気がします。そして、論理の根本には、いわゆる「論理」では把握することができない絶対的な不条理が世界にはある、という感覚があるのではないか、と感じます。高村薫は、阪神淡路大震災を経験した後、「地震のために亡くなられた方々の死を引き受けなければならない」という趣旨の発言を行いました。そして、地震がもたらした痛みを理解できていない東京の人たちに疑問を投げかけました。無数の死を引き受ける、という感覚は、論理的ではありません。もしかしたら、高村薫をナイーヴだ、あるいは古風だ、と嗤う人がいるかも知れません。しかし、人間は、無数の不条理な死をなおざりにしてはなりません。無数の死を放置したら死者を二重に殺すことになるからです。

沖縄戦を生き延びた人たちは、死者の名を平和の礎に刻みました。そして、何千度も無数の不条理な死を語り、平和を守るべきだと訴えてきました。沖縄のおじい、おばあのことばは、壮大な歴史の片隅に回収されていこうとしていた個々の人たちを蘇らせて、死に逆らいます。同時に、無数の不条理な死を明らかにして、そのようなことを繰り返してはならないと告げます。過去の出来事を教訓にして未来に託すことにより、過去を生かしているわけです。高村薫もまた沖縄の人たちのように生きていこうとしているようです。

人間は巨大な潮流の中にあります。自分を覆う構造を打ち砕くことはたいていできません。しかし、抗うことはできます。高村薫は暴挙かも知れないと自覚しながらも、ことばを用いて、世界の構造を把握して世界が孕む圧倒的な不条理に立ち向かおうとしているようです。だから、高村薫作品は指針になります。

※ 本日、高1学年ワーク「ボランテイア」グループ(生徒19名教員2名)が宮城県石巻へ向かい、12:45に学校を出発する。高1学年ワークは他に「脱電気」という企画もあり、3.11後の新たな取り組みを示す。

レディ・ジョーカー      (617)

中島大地君(24期生、大学1年)の読書・書評コーナーである「大地人~大学生の読書日記」、その2。今回は、『レディ・ジョーカー』 著者:高村薫、出版社:毎日新聞社。



【あらすじ】
1947年に届けられたとされる1通の「怪文書」が物語の冒頭に置かれています。その怪文書は「日之出ビールが部落差別のため、三名の社員を強制解雇したと聞いたが事実なのか」と問い詰めるものでした。差出人は日之出麦酒株式会社の社員、岡村清二。

時は流れます。歯医者・秦野浩之は、東大生である息子・秦野孝之の事故死を怪訝に思い、息子の周辺を調査しました。そして、息子の死後、日之出ビールから不採用通知が届いていたことを知ります。会社に確認してみると、秦野孝之は、日之出ビールの二次試験の途中で気分が悪いと中座して帰ったため、不採用になったようです。しかし、秦野浩之は、自分の父が部落出身だったから息子は落とされたのではないか、と感じて、日之出ビールに抗議文を送ります。一度目は本名で、二度目は部落解放同盟で。
二度目の抗議文を送った後、浩之のもとに、西村という部落解放同盟の男が訪れます。西村は一つの手紙を出します。1947年、日之出ビール宛に出されたと思われる「怪文書」でした。差出人は、浩之の妻の父の兄にあたる人物のようです。西村が去った後、浩之は整理できない感情を抱えながら、怪文書をテープに吹き込み、日之出ビールに送ります。そのテープは警察に届けられました。その後、浩之は自殺します・・・
浩之の義父、物井清三は競馬好きの薬局店主です。孫(秦野孝之)を失い、息子(秦野浩之)も失い、様々なことを調べている内に、老人ホームで死んだ兄、岡村清二のことを知ります。兄はかつて労働組合運動に関わったために日之出麦酒社を解雇されたようでした。物井清三は多くのものを失ったためなのか、なにかに突き動かされて、日之出麦酒社を脅そうと考えます。そして、旋盤工・松戸陽吉、信用金庫職員・高克己、トラック運転手/元自衛官・布川淳一とともに計画を立案。彼らは「レディジョーカー」と名乗り、日本ビール界最大手の日之出麦酒社社長の誘拐を企みます・・・

【感想】
実在の事件をモチーフにした小説。上下巻構成。ともに400ページを超えます。言葉は溢れています。しかし、説明されない部分もまた尽きません。読者は夥しい言葉であっても明らかにすることができないものがあるという当然の事実を突きつけられます。たとえば、人間の心は語り尽くせません。

『レディ・ジョーカー』には、「レディジョーカー」の面々、日之出麦酒社の面々、警察の面々、闇世界の人々(総会屋、右翼、暴力団)、記者など、様々な立場の人が登場します。各々の組織は決して一枚岩ではなく、渾沌としています。そして、各個人は犯罪とその背後にある日本の歴史が抱え込んできた矛盾に直面して、複雑な思いを持て余しています。しかし、自分の立場があるので、素直に思いを語ることもできません。だから、捩じれた複雑怪奇な状況が生まれます。現代日本を丁寧に映したかのようです。

※この後、著者=高村薫についてのコメントが続くが、それは明日UP。

自我作古 批評(ジャーナリズム)を考える。    (639)

この『トトロのトポス』には当初から「大地人~大学生の読書日記」というカテゴリーを設けていた。中島大地君(24期生、大学1年)の読書・書評コーナーである。今回は、その1

『自我作古 批評(ジャーナリズム)を考える。』著者:筑紫哲也、出版社:日本経済新聞出版社

【筑紫哲也】ジャーナリスト。朝日新聞社記者、『朝日ジャーナル』編集長、TBSテレビ『筑紫哲也NEWS23』メインキャスター、雑誌『週刊金曜日』編集委員などを務めた。自由の森学園の公開教育研究会に来たこともある。2008年死去。



雑誌『週刊金曜日』に連載されていた筑紫哲也の文章(「自我作古」と「風時計」の一部)をまとめたもの。世界の只中にありながら、筑紫哲也は様々な問題を論じていきます。言論に対するこだわりが感じられます。

民主主義の前提には言論の自由があります。ただ、四方八方にバラバラの言葉があるだけでは、何にもなりません。異なる意見をつなげるテーブルが必要です。様々な意見を持つ人たちがテーブルについたら、相互理解、寛容の精神、少数者の尊重などを重視しながら、互いを批評しなければなりません。

筑紫哲也は多くの言論をつなぎ、議論の場をつくろうとしました。そして、その際には、常に少数派の意見を取り上げました。たとえば、米軍基地問題を扱う際には、常に、沖縄の視点を紹介しました。

結果として、筑紫哲也は大きな影響力を持ちました。そのため、「反体制派を気取る体制派だった」、あるいは「反権力を名乗る権力だった」と揶揄されることもあります。しかし、筑紫哲也は力を用いて、反対者を捻じ伏せたから、支持されたわけではありません。自分の意見を貫きつつ、他者を議論に迎えたから支持されたのです。

『自我作古 批評(ジャーナリズム)を考える。』を読んでいると、筑紫哲也という人が、自分の主張を曲げない強固な意思とものごとを様々な角度から見つめる柔軟な姿勢を併せ持っていた、ということが分かります。その背後にあるのは、ものごとのバックボーンを見通す素養です。

印象に残った点を記しておきます。

筑紫哲也は、一極集中と回路の一本化が進む時、メディアは疲弊する、と分析します。そして、多くのメディアが交錯している状態が望ましい、と主張。その具体的な手段として、たとえば、硬派雑誌『週刊金曜日』の創刊・持続をあげます(「第2章 メディア批評の虚実(雑誌―滅び行く種族?;テレビ―永遠のジレンマと三重苦;新聞―衰弱する権力監視機能;本―文字文化から電子文化へ)」)。

また、編集の重要性を綴った部分も、印象に残ります。坂本一亀という編集者がいました(坂本龍一の父)。坂本一亀は、椎名燐三『永遠なる序章』、三島由紀夫『仮面の告白』、島尾敏雄『贋学生』、野間宏『真空地帯』、中村真一郎『長い旅の終り』、多岐川恭『落ちる』、水上勉『霧と影』、山崎正和『世阿弥(劇作)』、高橋和巳『憂鬱なる党派』『悲の器』、野間宏『青年の環』、小田実『何でも見てやろう』、辻邦生『夏の砦』、丸谷才一『笹まくら』の編集に関わり、小説家たちに大きな影響を与えました。

表舞台に立つのは、常に小説家です。名誉を手に入れるのも小説家です。しかし、編集者である坂本一亀という人がいたから、戦後日本文学はあるといっても過言ではありません。編集者は、舞台を陰から操作する「黒子」ということができます。筑紫哲也は表舞台に立っていたのだから一般的な編集者=黒子ではありません。しかし、原稿を書いている時も、テレビに出演している時も、常に編集者気分だったと綴っています(「戦後日本文学の偉大なる黒子」)。もしかしたら、筑紫哲也は、日本メディア全体の編集者だったのかも知れない、と感じます。

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