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カテゴリー「大地人~大学生の読書日記」の記事一覧

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宇宙ヨットで ③     (466)

昨日の大地君の感想の続き。

宇宙を飛行する機械が壊れても危機は訪れません。しかし、生活世界に組み込まれた工学の産物はリカバリがきくとは思えない破局的な事態をもたらし得ます。実際に、福島第一原子力発電所では深刻な事故が発生して、多くの人が家を追われました。工学や科学を問い直さざるを得ない状況が生まれています。原子力発電所は工学の結晶のように思えます。しかし、恐らく、原子力発電所を作り出して守り続けてきたのは、論理ではなく、核=マチスモに対する日本人の欲望や、資本の作用や、アメリカの都合や、原子力に関わる人たちの思惑などです。

日本は、原子力発電にエネルギー予算の多くをつぎ込み、他の発電方法をほとんど考慮してきませんでした。また、厄介なので、事故の危険性には触れませんでした。さらに、核燃料サイクルという夢物語を紡ぎ、放射性廃棄物の処理問題を後回しにしました。予測を立てて、企画を立案して、実証して、結果を次の実践に活かしていくというサイクルを経て、より合理的なものとして原子力発電を採用してきたわけではないのです。

結局、科学全般は、背後にある不合理な権力や社会の影響下にあります。科学や工学の意義を考えてしまいます。(結)


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宇宙ヨットで ②     (467)

昨日の大地君の感想の続き。

著者は、高校の時、宇宙に関わる仕事に就きたいと思い立います。そのため、航空宇宙学科が存在していた大学を希望しますが落ちます。しかし、入学した東京工業大学が機械宇宙学科を新設しました。そのため宇宙に関係する研究に携わることができるようになります。その後、民間メーカーに就職しますが四月下旬には大学のポストが空き、戻ってこないかと勧められます。話し合いの末、会社を辞めて大学に戻り、研究を続行します。そして、JAXAには二回目の入社試験で合格して、遂に宇宙に関わる仕事に就きます。

著者は多くの挫折を味わったそうです。しかし、宇宙に関わる仕事に就くために努力を惜しみません。そして、自分の夢を実現します。

著者が自身の考えを綴っている第五章は印象的です。工学は「自然の法則」を基本とする夢に満ちた純粋な世界だと著者は語ろうとしているようです。工学の世界では失敗してもリカバリがきくのだから、高い目標に向けて挑戦することが大切だと奮起を促します。そして、地道に努力すれば、東日本大震災がもたらした日本の技術に対する不信は拭うことが可能だと力説します。震災後だからこそ、あえて希望を語ろうとしているのだと思います。



しかし、著者の論理には説得力がありません。(この項、続く)

宇宙ヨットで ①     (468)

中島大地君(24期生、大学1年)の読書・書評コーナーである「大地人~大学生の読書日記」、その5。今回は、『宇宙ヨットで太陽系を旅しよう』(森治、岩波ジュニア新書)

 

宇宙ヨット(ソーラーセイル)「イカロス」開発をプロジェクトリーダー森治がまとめたもの。ソーラーセイルは、太陽のエネルギーさえあれば速度を得られます。だから、推進剤は必要がありません。「省エネ」というより「ゼロエネ」だと著者は綴っています。実現すれば彼方まで飛ばすことができるはずです。しかし、ソーラーセイル開発は長い間実現しませんでした。技術的な課題は飛ばしてみなければ把握できないから解決することもできませんが、実際に飛ばそうとする人はいなかったのです。

著者たちは世界で初めてソーラーセイル開発に挑戦します。そして、多くの困難に直面しながらも「イカロス」を作り上げて飛ばします。開発の過程が丁寧に分かりやすくまとめられています。専門的なことが分からなくても、楽しむことができます。

とくに面白いのは著者自身の来歴を綴っている第四章です。(この項、続く)

世界共和国へ 資本=ネーション=国家を超えて…②    (474)

昨日の大地君の感想の続き。

柄谷行人は、最終的に国家を超えるものとして世界共和国こそが必要であると結論付けます。『世界共和国へ』は、『永遠平和のために』を意識した作りになっています。『永遠平和のために』は、プロイセンの哲学者イマヌエル・カントが1795年に刊行した書物。絶対的平和を実現するため、必要になる条件を列挙しています。

◇予備条項
「将来の戦争の可能性を含む平和条約は、そもそも平和条約とみなしてはならない」
「独立して存続している国家は、その大小を問わず、継承、交換、売却、贈与などの方法で、他の国家の所有となされてはならない」「常備軍はいずれは全廃するべきである」「国家は対外的な紛争を理由に、国債を発行してはならない」「いかなる国も他国の体制や統治に、暴力をもって干渉してはならない」「いかなる国家も他の国との戦争において、将来の和平において相互の信頼を不可能にするような敵対行為をしてはならない。たとえば暗殺者や毒殺者を利用すること、降伏条約を破棄すること、戦争の相手国での暴動を扇動することなどである」

◇確定条項
「どの国の市民的な体制も、共和的なものであること」「国際法は、自由な国家の連合に基礎をおくべきこと」「世界市民法は、普遍的な歓待の条件に制限されるべきこと」




『永遠平和のために』が執筆された頃、国際的な連合がありえる、と真剣に考えている人は恐らくカント以外にいませんでした。国際的な連合はカントの単なる夢想だったのです。しかし、第一次世界大戦後、世界規模の大戦争に苦しめられた人々は国際連盟をつくりました。そして、第二次世界大戦後、人々は国際連盟を国際連合に発展させました。

国際連合は意味がないと主張する人がいます。確かに、国際連合の会議では、大抵の場合、各々の勢力が各々の利益を主張しているだけです。不合理な会議、不公平な決定も溢れています。そして、結局、強国の横暴を止められません。しかし、国際連合は、現在、地球全体のことを真剣に丁寧に考えているグループがほとんど存在しないことを逆説的に示します。そして、国家や企業はそのグループの利益を何よりも優先するからあぶない、ということも明らかにします。そして、国家・企業に頼らない別の手段も用いながら、現状を打開していこうとするべきなのではないか、と思わせてくれます。

夢想は現実を照らし出し、変えていくものに成り得ます。『世界共和国へ』もまた夢想であるがゆえに、もしかしたら現実をうつしだす鏡になりえるかも知れません。ただ、強度と迫力が足りない気もしますが。

世界共和国へ 資本=ネーション=国家を超えて…①    (475)

中島大地君(24期生、大学1年)の読書・書評コーナーである「大地人~大学生の読書日記」、その4。今回は、『世界共和国へ 資本=ネーション=国家を超えて』(柄谷行人、岩波新書)。.



柄谷行人は、「資本=ネーション=国家」という言葉を用いて、資本主義とネーションと国家は共犯関係にあると主張します。資本主義が力を持ちすぎれば、ネーション(民族)と国家が正して、国家とネーションが力を持ちすぎれば、資本主義が正すという体制が現在あるというのです。

ものごとを単純化してトライアングルを見出す柄谷行人のパターン化した論法が用いられています。頓挫した実践に対する反省は感じられません。基本的には、著者がこれまで積み上げてきた論理の変奏です。力を抜いて適当に読み流すのが良いのかも、と感じます。

柄谷行人は、通貨の構造を読み解き、通貨の流通が招く諸々の事態に向かい合う方法を提示しようとします。そして、たとえば、労働組合などによる権利闘争は資本主義システムに組み込まれるから無意味であると主張します。そして消費の段階において抵抗していくべきだと呼びかけます。問題を孕んだ提起です。誰もが意識的に買うものを選べば、買う、あるいは買わないという行為は積極的な意味を持ちます。ありふれた結論ですが、だからこそ、説得力があります。

ただ、大勢の人が消費者であることを自覚して行動していかなければ、選択して買う運動は力を持ちません。しかも、抵抗するためには資産が必要になります。フリーターには容易ならざる道なのです。柄谷行人の提案を実現するのは簡単ではないと感じます。

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